嗅覚のスイッチ

2020年8月 3日 09:15 下道 基行 */?>

小さな瀬戸内の島に住み始めて、一つ疑問に思ったことがある。
”浜辺や港や島中で、海の「臭さ」をあまり感じない”
ということ。

これまで、旅の中で色々な港町や海岸に近づくと感じる「海の匂い」「磯の香り」の中には、独特の「海の臭さ」を少なからず混じっているように感じていた。ただ、この島には引っ越したばかりの頃からそのような「海の匂い」を感じることが少なく、もちろん「海の臭さ」を感じることなどないのだ。

様々な人にそのことを質問してみると、
「昔より海が綺麗になったからじゃないかなあ?」と話す島民。
もちろん、僕が幼少期に過ごした1980年代の瀬戸内海は、まだ高度経済成長期で傷ついていただろうし、その後公害問題や自然破壊の意識の変化でこの海は明らかに綺麗になった。そのことも関係しているのかもしれない。
さらに、「瀬戸内海は元々、狭い内海で、陸地から川の水が大量に流れ込むので、他の海よりも薄いらしい」という話も聞いた。そう言われてみると、沖縄で海に入った時に比べて、瀬戸内の海で海水浴をしても水がさらさらとしていて、上がった後にもベタつかないような気もする。気もする。。でも、瀬戸内はかつては古代から塩田がたくさんあって塩が産業だったことを考えると、明らかな塩分濃度が薄いとは考えにくい?
あとは、、、そこまで漁業が盛んでもなく、ガンガン水揚げとかもしていないし、海岸に雑魚が転がったり、そういう生臭い匂いの発生源が少ない、とか?うーん。。。

(こういう日記って、facebookに書くとすぐに、親切な誰かがコメントで「正解」を書いてくれてしまう。それがいい時もあるし、利用もできる。
でも、今回は答えを探すのは少し置いておきたい。この文章を書くことは「プロセス」の記述であり楽しさ。文頭に掲げた「疑問」という「目的地」は、たどり着くためのものではなく「プロセス」のためにある。今回は。)

ウチの家は海に面して立っている。
ただ、残念なのは、海方向の壁に窓がない。いやあるにはあるが、階段の上の空気の入れ替え用で30cm程度の小窓のみで、曇りガラスで風景も見えないのだ。
一週間前のある日、
朝起きて、階段を降りている途中急に、「海の匂い」を感じて、その方をみると、珍しくその小窓が空いているのに気が付く。妻が開けたのだろう。
薄暗く密閉性の高い室内の階段スペースへ、小さな小窓から吹き込む外の空気に混ざる「海の匂い」は鮮やかで朝の脳を刺激する。そして、やはり「臭く」なかった。ただ外にいる時より「海の匂い」を感じる瞬間でもあった。
その日から、朝、階段を降りるとき、嗅覚のスイッチがパチンと入る。
日々、「海の匂い」は変化しているようだった。
嗅覚を元に仮説を立てる楽しさが日々行われている。
(誰かからすれば当たり前の事で答えが出ているだろうが。当たり前になったすぐ隣に大発見とはある。かも?)

2020.8.3. 直島