ラジオによる遠く離れた2人/3人による日記の同時筆記

2020年12月 3日 06:42 下道 基行 */?>


『山下道ラジオ』の放送が、ついに50回を超えた。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLI14yGCeRYoUejQYyzGPeSqUtU2f-xC2J
視聴数は毎回100回程度なので、よく聞いている人はだいたい50人くらいいるのかもしれない。まぁ、すでに視聴者数を気にしないようになっている。このラジオは、おそらく多くのリスナーを獲得するためのものではなく、ラジオという形を使った「遠く離れた2人による日記の同時筆記」なのかもしれない。つまり、これはラジオという”産業”とは全く別のものとして存在している。二人の日々の思ったことやアイデアを話し合う公開ミーティングであり、公開の飲み会であり、他愛もない日常を繋いだだけの“場所”であり、その記録である。
(産業としてのラジオとは、スポンサー収入や芸能人やミュージシャンとかの営業や告知など、いろんなレベルでお金が発生しているしその関連の存在。『山下道ラジオ』が何にも産業として意味がないのもどうなのか?と思うが、仕事や考え方や生き方を考えたり発言することで脳を回し続ける、”無宗教の寺”みたいな存在なのかもしれない。自分のためでもあり、時に誰かの役にもたつかもしれない。アイデアのオープンソース。)

鬼才・山下陽光氏との他愛もない会話の中から始まったこのライジオの特徴は、毎回、彼の住む福岡と僕の住む愛知(途中から直島)をメッセンジャーでつないで録音する、というアナログなもので、「離れた場所どうしをつないで面白いことをしたいね」という『新しい骨董(2013年より活動をする山下と下道と影山のグループ)』の試行錯誤の延長上にあった企画/実験であった。ただ、このラジオは2020年3月11日に開始され、当初本人たちは「離れた場所を繋いで話してラジオ作る全然できるし、たのしいー!」と狂ったように毎日毎日盛り上がって収録していたのだが、1ヶ月後、毎日はやりすぎでしょ、と週一になった。ちょうどその頃、新型コロナが中国以外でも爆発的に流行しはじめ、4月16日にロックダウンが起こると、人々は遠隔で様々なことをしなくてはいけない状況になり、ラジオやテレビ、会議や学校までも、遠隔でオンラインで行うのが“普通”になってしまっていった。(ちなみに、「山下道ラジオ」の第一回テーマは「住む場所と移住」でコロナの話題はまだない。僕自身のこのラジオへの当初の期待は、愛知から直島への移住を準備していた時期に、「どこで暮らすか」をより深く掘り下げて考えることだったと記憶する。)世の中では徐々にウィルスが流行する中で、展覧会やイベントの多くが中止になり、「オンラインで世界が繋がる」という趣旨のイベントが多数行われるようになった。離れた場所どうしでイベントや収録を行うのが当たり前になる感覚は、もし人類がこのウィルスに勝利した後も続くだろうと考えると、『山下道ラジオ』は1ヶ月だけ世界より早くその感覚を手にしていたのかもしれない。いやいや、鬼才は、youtubeが始まる一年前の2004年に(中古のフェミカセに書かれた名前をたよりに本人を探す動画を撮ったり、色々と)すでにyoutuberのようなことを始めていた人物でもあるし、ネットラジオというのもかなり早い段階から行なっていたので、この出来事も妙に納得できる。彼は”前衛”であり、0から1の壁を突破する人で、1になった瞬間にそれは世間で”当たり前”になるものだから。(『山下道ラジオ』がそこまで新しくはないが。)

僕はというと、2014年から「旅するリサーチラボラトリー」というサウンドアーティストmamoruとのコラボの中で、「旅のフィールドノートの同時筆記」を試行錯誤し、一緒に旅をしながらラジオを収録することを意識的に行なっていたので、その筋力が今ようやく自由に生かされているようにも思っている。
https://www.travelingresearchlaboratory.com/


そして
今週、『微妙な放送』という、香港と日本をつなぐラジオ、広東語と日本語で同時に聞けるラジオをはじめた。毎週、直島と香港の日常を毎週繋ぎ、日々の出来事、作品制作や家族の事や色々話す。2年前までかなり頻繁に香港に行っていて、初めは仕事の出会いから、飲み仲間になった3人。香港在住の美術家のヒンさんと通訳のヒコさん。同時通訳ヒコさんは香港と日本、両方がネイティブ。そして、日本のラジオもよく聞くそうで、そんなヒコさんがふたりの美術家を 同時通訳で繋ぎながらMC/DJをします。ヒンさんは素晴らしい美術家であり、四年前に香港の学生を連れて日本を一緒に旅行しながら、毎日ラジオを録音した経験を持つ。いや、3人の関係性や専門性がないとなかなか成立しないし、半分意味の分からない間がある奇妙なラジオ『微妙な放送』。この同時通訳者が二つの国や言語をまたいでつなぐラジオ、これがなかなか新感覚で面白い。(聞いてみないと伝わらないのでリンクを。)
https://www.youtube.com/channel/UC2bHrW1IIVv2xYEM9qSO5Qw

このラジオ『微妙な放送』も「遠く離れた2箇所による日記の同時筆記」。僕とヒンさんとヒコさんが、香港で3人でよく飲んでいて、深夜とかになてくると、僕は日本語で語り、ヒンさんも香港語で語り、ヒコさんがそれをひたすらつなぐ、みたいな飲み会がたまにやっていて(プロの通訳に対してリスペクトのない行為…)、そういう関係性や経験があったからナチュラルにスタートしたのだけれど。
今後、誰か真似できるもっと面白い人々が、韓国と日本とか、日本と全く知らないアフリカの人々とか、同じようなことを始めたりしたら、面白いだろうなぁ。聴きたいなぁ。と勝手に想像している。

さて、話を最後にまとめると、
なんだか、国家や政権というのは民衆のことを全く考えないし暴力的で、他者に対して排他的にどんどん進んでいる。(違うか。実はその国の多数がそういう政権を欲している、という国家はその民度の映し鏡。)でも、それって今始まったことでもない。もちろん、反対の声をあげるのは重要だし継続していくべきだけど。何万人もの民衆の声を堂々と無視する人たちだから。(香港のことを書いている。)もしかすると、こういうラジオが離れた人と人や閉ざされた国と国の壁をヒュッと飛び越えて、それぞれの普通の“日常”を繋いで、普通でポジティブに、風穴をいろんなところで開けていくって、結構面白い実験なのではないか。と思うんです。

いやいや、そんな大それたことでもないし、日々ストレッチするくらいの気持ちで楽しんでいるだけですが。。