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幼い頃からの関係が深い親や兄弟ではなく、新しい家族である甥っ子姪っ子というのは、どこか奇妙な距離感であり、浅くない面白い関係だと思う。その関係性はどこかの本とかに書いてあった気がするので、ここでは語らないが。まぁ、寅さんとミツオの関係のような、ね。
僕の姪っ子は姉の娘なのだけど、いつの頃からか、「お医者さんになりたい」と言うようになり、その目標のために昨年は医大の入試を受けるも不合格。一浪をしていた。僕の周りには医者の家族や親族はいなかったので、医大や医学部の事を今までよく知らなかったが。並並ならぬ努力をもう何年も継続していた彼女の、この不合格によって医大医学部の壁の高さを家族は痛感することとなった。そして、彼女の努力を知っている家族は、もう彼女に「頑張れ」と声をかけられなかった。誰よりも頑張っているのだから。
うちの家系は多分、そんなに頭が悪くはないが、そんなに飛び抜けていい方でもない、と僕は思っているので。彼女は自分の脳や遺伝子の限界への挑戦をしているのではないかとさえ思う。フリーダイビングのように、一人で、深い暗い海の底へ息を止めて、苦しくてもひたすら潜っていくように。ただただ、自分の限界と向き合い続ける日々。
そのまま息切れして、暗い海底へと沈まないように、「頑張れ」ではない言葉を探して呼びかけるだけしかできなかった。
今年も受験で良い発表を聞かないままだった、昨日、とある医学部の特待生(学費免除)として合格の報告を受けた。家族全員はただただ涙し、彼女をねぎらう言葉をかけた。彼女の努力と成果に。
医者という生き方を目指す家族の一人を、アーティストという叔父がどのようにサポートしたり役に立つことが出来るのか不明だが。まぁ、たまに苦笑いされるような土産を手にフラリと現れ、悩み事を聞くくらいには立つかもしれない。
ようやく道の入り口に立った彼女は、
今から、生きることの辛さや豊かさに全身で立ち向かい、自分の道を作るのだろう。
とにかくおめでとう。
お互い、下道をとぼとぼ歩みましょう。