「直島鍰風景研究室」
2020年3月、瀬戸内海に浮かむ直島に移住してすぐに、島の街並みに部分的に使われている「黒く鈍く光る煉瓦」が気になり調べると鍰(カラミ)煉瓦だった。鍰煉瓦は犬島でも有名なのは知っているし、先輩の現代美術家がこの鍰を使ってオブジェを作っていることも知っているので、簡単には手を出さないように考えていたが、直島の風景の中に生きた形で使われる鍰煉瓦を見ていると、何かこの対象物に対して自分らしい触れ方ができる気持ちが湧いてきた。
島の人々に聞くと、島内に戦前より稼働する三菱の製錬所でかつて作られたこと以上には詳しく情報は得られなかった。島民のアンドリュー・マコーミックと岡本雄大と一緒に「直島鍰風景研究室」を作り、日々、鍰煉瓦の風景を見つけるたびに記録しマッピングするようになった。そこで煉瓦だけではなく、直島だけで作られた鍰の瓦やタイルなどの発見をした。1年間、収集した写真や情報を元に、2021年8月「直島鍰風景地図」が間も無く完成。刷り上がってくるのが楽しみで待てない……。
僕が島で「直島鍰風景研究室」をやる意識としては、ただただ外から都会的なものを持ち込むのではなく、「プロフェッショナル」な意識を持った島民と長期的で制作して、どこで見せても見劣りしないちゃんとしたものを一緒に島から生み出し、世界に発表したいと思うからだし、メンバーの2人は一緒に協働することで、さらに一人では考えつかない方向に進んでいるし、一緒にそういう経験をしていること自体も面白い体験だった。
1年以上、Instagramをベースに島内の調査を3人で行い。最終的にデザイナーの橋詰くんに入ってもらい、「直島鍰風景地図」が完成した。1年半というのは長くはないが、それでも、きっちりと時間をかけて話し合って考えて調べた上で、世界中どこに出しても恥ずかしくないし新しいアウトプットが、小さな島でコラボレーションによって出来た。それはとても嬉しいこと。
僕なりにメンバー紹介すると。岡本くんは風景を見て深く考えることができるし、文章の構成/校正など編集者的ポジショニングが取れる、さらに島出身で三菱の工場に勤めている超ローカルであるバランス感覚も助かる。アンドリューは印刷物に対して素晴らしいセンスを持っていて、視覚的に深いコミュニケーションが可能であること、そしてアイデアマンで行動力があるし、あとよく日本の印刷物の英語訳にケチをつけているから今回は彼自身による完璧な英語訳を見せてくれるだろうし。笑 何より、二人ともそれぞれのプロとしての目の厳しさを持っている。
今回は、直島の鍰煉瓦をテーマに、僕らしく、風景に指一つ触れずに、新しい小さな視点を作れたと思っている。それは、犬島や直島で先輩の現代美術家が生み出したようなパワフルでオブジェ的な作品ではない、もう一つの道。それが地図という形で島で使われ続けるの可能性も最高だ。パブリックアートとしてではなく地図としてその土地に残る。何より素晴らしい3人のバランスだった。これは大きな一歩であり、早くメンバーとともに祝いたい。
内容についてはまた追々。まずは、昨日校了した喜びを描いてみました。