デンマーク日記
ヨーロッパは3年ぶりだろうか。デンマークのオーフスに来た。人口30万人なので首都コペンハーゲンとは比べられないほどのんびりした中規模都市。有名大学があって学生が多く、お洒落な店は全然ないが、夕方からバーや公園でビールを楽しむ学生や人々。清潔感があって、雪解けの春のような爽やかなエネルギーの満ちたこの街がすぐに気に入った。
オーフスには二つ現代美術館がある。僕が展示するのは、(オラファー作の屋上展望台が有名な)大きな美術館「アロス・オーフス美術館」ではなく、そこから歩いて5分の小さくてかわいい美術館「オーフス現代美術館」のほう。今回は海外での初個展の設営のために、一人異国に来た。大きな方の美術館は、現代的な巨大なホワイトキューブとコレクションを有するのに対して、こちらは平屋で焚き火もできる庭があって、展示室とカフェが緩やかに繋がっていて展示のためにくるというよりは公園に遊びに来るような感じ。照明も天窓から自然光を取り込んでいて、空間も人もリラックスしている。歴史も100年以上あるから、人々は愛着を感じているようだ。
今回は、度重なる展示期間の延長、コロナ禍の移動のストレスに加え、輸送費や保険などが厳しくてたくさんの作品を手持ちで運ぶことや、ロシアを迂回して飛ぶ飛行機と高騰するサーチャージ、さらに現地でのワークショップがなくなるなど、出発前には大きく気持ちが落ちていました。(逆に家族や友人たちから「北欧、いいなぁ〜。」と羨ましがられすぎて、ストレスを溜めていた。)ただ大変なストレスを抱えつつもこちらに来てみると、美術館やスタッフ全体からリラックスした空気にすぐに感染した。デンマークではマスクは誰もしていない、コロナ禍の日本に閉じ込められている2年以上の時間から少し未来の世界へタイムトラベルしたような感覚で、目が覚める思い。
展示空間は広くはないですが狭くもなく。何より自然光が美しい空間に励まされ、元気が出る。スタッフはさなまざな国出身の多国籍チーム。展示前なのにみんなリラックスしててそれにも励まされる。設営準備中でも人々は公園やカフェに来るようにこの小さな美術館に来る。僕の小さな作品たちには十分な小中規模の個展。内容は一昨年の都現美のTCAAのような作り方を実践。僕がこれまでやってきた、ある意味バナキュラーな旅、東アジアの境界線上という限定されたフィールドで思考しつくられた作品たちを別の地域の観客たちはどのように受け取るのか。今回はオーフス現代美術館の企画展は、韓国との交換プログラムがベースで、韓国のキュレーターのヘジュさんが誘ってくれた。ここまで僕の活動を深く理解してくれている彼女に感謝しかない。
なんて言えばいいのだろう。公共施設を回し予算を使うたために作られるモチベーションが強くない企画とかもそうだけど、作品を地球の反対側までお金や労力をかけて運んで展示して、1回1回作っては壊しを繰り返す展示とか、そういう自分が関わっている環境の後ろめたい部分?に疑問を感じる最近。数年前の現美のオラファー展を見た時にそれは考えさせられたけど、別にオラファー展にその解決はなされていなかったし。ユーモアを武器にモチベーションを取り戻そうと力みすぎるとパワハラになってしまうのではと急ブレーキ。誰のため?自分のため?これ誰がやりたいの?誰が見たいの?自己顕示欲?承認欲求?美術の歴史のため? その自分が置かれた場所に疑問を持ち、実践していきいたいと考えている道がここにも続いている。その疑問への答えを探す船のように、小さな直島に自ら閉じ込められ住みながら進めている小さな地域のアーカイブ/美術館を作るプロジェクト《瀬戸内「 」資料館》は(2つの瀬戸芸を越えて)最新作として、さらにゆっくり強くなっていくはずだと信じている。さらに、はじまった「新美塾!」も未来。
色々大変な思いの末の異国での日常が始まった昨日。展示空間はまだ空っぽ。さらに、明日から連休らしく、みんな休む気まんまん。でも、ここまできたら、なるようにしかならないので、ベストを尽くすだけ。なるようになるし、なるようにしかならない。
小さな島(直島ではなく日本だろうな)から少し連れ出してくれた友人に感謝。
いや、まぁ、やはりこれは羨ましがられる機会というわけなのだろうかな。
自分のベストで。