TCAAの展示制作の話 1

2021年3月23日 16:31 下道 基行 */?>


TCAAの都現美での展示全体の制作で考えたポイント。
ここで書く内容は、こう見て欲しいということではなく、展示空間を作る時に考えていたことのメモ。書いとかないと忘れるので。忘れてもいいが。だから、作品単体の内容には一切触れていない。読み解き方は自由であるし、複数の作品のインスタレーションをどの程度意識的に作ったか、というだけの話。参考まで。
「作品自体が素晴らしければ、どんな空間や壁に飾っても素晴らしい」という人がいるならこの文章は蛇足かもしれないが、それは正しくもあり間違っている、と僕は思うのでかく。
メモがわりに、さらに展示に興味を持ってくれた人のために、書いておく。

【作品選び、空間構成】
・今回、展示空間に何をどのように置くか、なるべく決めないように進めた。ただし、展覧会スタッフ側はかなり前段階から、何を何点どのように置くか?という質問を締め切りを決めながらせっついてきたが、なるべくぼやかしながら進めるように、動いた。空間内にも、多めに持ち込みながら、どんどん削っていくスタイルをとった。
・最終的に選んだ内容は、「津波石」+「漂泊之碑/沖縄硝子」+「14歳と世界と境」+「新しい石器」+「Drawing the line (仮)」+「瀬戸内「 」資料館」の6プロジェクト。
・2011年以降、この10年間、シリーズ「torii」がたくさんのグループ展に参加するきっかけになったし、国内外で発表され続け旅をした。ただ、2011年以前に「torii」はすでに7割完成して2012 年にはしっかりと発表していた。そういう意味で、2011年以降は「津波石」やその他のシリーズを作りはじめ続けてきたが、「torii」ばかりが目立ち、代表作となっていった。その流れは、2019年に「津波石」がヴェネチア日本館で発表されたのと同時に終わっていった感じはあったが、実は、「津波石」やその周辺で、”「torii」以後”の思考と制作を進めていた10年。それを一堂に見せる。
シリーズ作品からプロジェクト作品への移行を見せる。個人作品から別の形へ。
さらに、その2011年ー2021年という10年、”「torii」以後”の作品は「津波石」をそのA面的作品にしながら様々なB面的作品と共にある。「津波石」だけが華々しくデビューしてしまったので、そのA面とB面同時に紡ぐ「アルバム」的な展示として今回は意識的に作った。(A面的作品=「津波石」「torii」「戦争のかたち」)
さらにいうと、まだ未完成の「瀬戸内「」資料館」は、「津波石」の先のA面的作品をプロセス段階から開示しながら進める現在進行形の最新作として位置付けて展示をしたことで、さらに先を意識させられるよう。「津波石」と「瀬戸内「」資料館」というA面作品の間に、B面で挟む感じ。これは、今回のカタログでも実践している。
・2Mくらいの壁が一つ立っているのは、この裏に中途半端な位置に柱があり、その柱がむき出しだと導線がかなり複雑になってしまうことと、さらに、柱を隠すこの小さな衝立によって、入った時には見えない作品がいくつか作れれるので、ページをめくるような体験が少し作れるから。


【照明と空間】
・空間が薄暗くなっていて、少し変わった照明器具で空間を作っている。この照明は特注でゼロから照明担当者と考えて作った。もちろん、フラットな照明でも作れる展示内容なのだが、このようなインスタレーションを作った理由を書くと、全ての作品が別々のプロジェクトでありながら、混ざり合っている箇所が多く、関連性を持っているから。壁によって一つ一つ囲まず、それを鑑賞しながら、客は回遊できて、どこまでがどのシリーズであるかが少し分かりにくくしている。そのシリーズの枠組みを、上から垂らす照明で光の「島」を作り、壁を使わず囲う。そういう意図で作っている。
もちろん、作品の全体が「島」に関わることもあるし、「海」をテーマにした作品も急遽制作し入れている。「島」に対して「海」、隔たりと接続。
・高さ3Mあたりまで垂らされた特注の照明のコンセプトは、「空間内に光で島を作る」「ボルタンスキーみたいに裸電球や光源の意味が出ないように注意する」「高い天井を意識させないために下に光を落とすが、傘や電球自体がカフェみたいにデザイン的になりすぎない」「あったかい雰囲気は少し残しつつ、研究所や博物館のように機能的でドライな照明」。

【展示空間内や作品内の文章】
・「14歳と世界と境」「瀬戸内「」資料館」「漂泊之碑」にしても、作品内の文章が半端なく多い。ように見えるが、別に読まなくても伝わるようにできている。(読んだらさらに面白いかもしれないが、全然全部読んでもらおうとは思っていない。)文章や読み物の存在感である程度完成している。文章が多くてそれだけで見る気をなくす人には申し訳ないが、意識的に読むのに辛い量を用意している。

【海図】
今回、この展覧会の全体のつながりを作る存在として、照明とともに「海図」を意識的に扱っている。
使用した意味としては、デザインがかっこいいからではなく、この海図は「海」の移動/航海の為に作られた地図であることがまず第一。さらに、現在では海図は世界で共有されているものではあるが、近代の国民国家の枠組みを作る際に作られ、現在日本では海上保安庁が発刊していること。陸地の記されていない日本海だけの海図が存在し、「Drawing the lines(仮)」では、その日本海だけの海図を使用しているが、地図上に印刷された言葉/名前を全て消して使用している。
「津波石」+「漂泊之碑/沖縄硝子」+「瀬戸内「 」資料館」では、この海図にトレーシングペーパーを重ねてマッピングに利用しているが、「Drawing the lines(仮)」では、海図の上に書かれた文字を削り取って、ただの海の地図として使用し、シリーズとの関係性を作っている。


【地味にうまくいった箇所】
・風間さんの空間との切り替わり部分。この部分にも壁や布はない。照明のグラデーションを細かく指示しながら、緩やかな空間の切り替わりを、照明担当者と風間さんと話し合いながら何度も作った。このように、別作家との空間の切り替わりは様々な問題が発生しやすく、なかななかうまくいかないが、その部分をお互いに共有しながら、とてもいい形になっている。風間さんが協力的でこちらの意図を理解してくれたのも大いにあるが。この部分がうまくいっていれば、お客さんは気がつかない部分だろうし、そうなっていることを祈る。
この辺りは、ヴェネチア日本館での壁の立てない共同作業や展示制作が生かされたかと思う。