bridge
gallery αMで開催されている、3人のキュレーターによる連続企画展「成層圏 Stratosphere」。今回は高橋瑞木のキュレーションで、「風景の再起動」の3回目として下道基行の作品展が開催された。下道は2004年から日本各地に残る戦争遺跡を「再利用して」記録していく「Re-Fort」のシリーズを制作しており(リトルモアから2005年に写真集『戦争のかたち』として刊行)、今回はその第6回目の展示の予定だった。ところが、「3.11」以降に心境の変化があり、急遽用水路などに架かっている小さな板きれのようなものを撮影した写真を展示することになったのだという。A4判ほどにプリントされた各写真には、「11/05/17 09:18」といった撮影の日時が付されている。実は下道はいま、日本全国を震災直後に購入した小さなバイクで移動しており、これらの「橋」を見つけるとすぐに撮影し、データをギャラリーのプリンターに送信し続けている。プリンターから出力された写真は、随時壁に貼り出され、その数は会期中にどんどん増えていくわけだ。
旅の途上にある下道自身の移動と発見の状況を、ヴィヴィッドに定着していくその方法論は、とても洗練されていて気がきいていると思う。作品そのものも、一点一点の撮影のコンディションとクオリティが的確に保たれており、それぞれの風景の差異と共通性を見比べていく愉しみがある。下道が会場に掲げたコメントに書いているように、これらの「橋」たちは「生活/風景に必要な最小単位の物体であり、行為のひとつ」である。このような、さりげなくもささやかな営みの意味が、震災以降に変わってしまったことを確認していくのはとても大事なことだと思う。この作品が、今後の彼の制作活動において、新たな大きな水脈となっていくのではないかという予感もする。
2011/07/15(金)
(飯沢耕太郎)
artscapeより転用